サデスパー堀野という男

★表紙
近藤宗臣
※原画URL → http://twitpic.com/87fwkn


★イラスト作品
近藤宗臣
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とん
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酒井康彰
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井上神志
※原画URL → http://twitpic.com/aejz6x
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★テキスト作品

■まえがき     窓原 凛
竹の子書房で一番気が回る男、サデスパー堀野。
でも自分のことにはてんで機転が利きません。だって興味がないんだもの。
自叙伝が書けないほど己に興味がない男に私達が教えてあげましょう。
サデスパー堀野という男を。

ということで竹の子書房の皆様でサデスパー堀野(通称サデさん)の印象を呟いて、それを集めて電子書籍にしちゃおうという何ともニッチな企画。
日陰に潜むサデさんを、竹の子書房の縁の下から引きずりだして、日の当たる場所へ導いてあげようじゃありませんか。

サデスパー堀野の名言。
「宝くじが当たる路線なんて見たことない、僕という電車はその路線を走らない」
宝くじは当たらなくとも、走らせてあげましょう。明るい道を。

■科目は『竹の子書房』     真佐雪
(キーンコーンカーンコーン)
はい静かにー! 今から中間テストの範囲発表するよ。今回は「サデスパー堀野」全般がメイン。その中でも
●ゲーマー・特撮好き・AVソムリエという非ヲタ女子ならドン引きなスペックなのに、嫌っている人を見た事が無い。
●ほとんどの話題に対応出来て、誰に対しても温和で、「謝ってください」と言えば理由を知らなくても即座に謝って笑いに変える。
●竹の子女子社員のほぼ全員からペット認定されている魔性の総受け。
この辺が最重要項目だからしっかり勉強してくるように。あと竹の子七不思議にもなっている
●甘いものも辛いものも酒も煙草もいけるという、リアル世界でもある意味総受け体質なサデさんに何故恋愛カテゴリだけ抜け落ちているのか?
の主な説として
@仕事が忙しすぎてそんな暇も精神的余裕も無い日々が延々と続いている。
AAVを見過ぎて普通の女性が土偶にしか見えない。
B己の修練の為に女絶ちをしている。
が有るけど、それ以外にも自分の説があれば自由に書いて良しだから。むしろ自説を書いたほうが評価高くなるからね。皆どうすれば恋愛をしようとしない不惑に恋の火を点けられるか考えておくように。
あ、テストと関係ないけど、先生はサデスパーさんってSMAPの吾郎ちゃんとなでしこジャパンの澤さんを足して二で割った顔だと思うんだ。
皆はどう思う? 先生結構的確な表現だと思うんだよね。
(キーンコーンカーンコーン)
さて今日はここまで! 皆しっかり勉強していい点取るんだぞー!

そしてサデさんごめんなさい。ついでに「サデ子」の呼称を定着させたのは私と漆原さんです。ごめんなさい。

■崩れた世界のはざ間から     黒実 操
昏(くら)い目をしたその男は、賽の河原を歩みゆく。積み石を避けるように足を運ぶのだが、徐々に足場は狭くなる。
――カラン。 ついにひと山、崩してしまった。
否、違う。 石だと思っていたそれは、小さなカードの束だった。舞い散る、色鮮やかな紙、紙、紙。
それを視認した男は、重金属製の心臓に血が通う感触を味わった。
世界と同じ色の布で身体を覆った大鼠が、人語とは違う重厚な言葉を発する。男の脳内でそれは、住んだことなどない、馴染みのない地方の方言へと変換された。
指し示された方へと、再び歩を進める。
目の端に、チラチラと小さなものが映る。
自然を模したもの。獣を模したもの。人間を模したもの。何かを模したもの。そして異形のもの。
それらと同じ数だけ、男の心臓が動いた。
やがて男の目の前に、肉色の生きた山が現れる。
大きな大きな――それは女の形をしていた。
全裸で背を向けた恰好で跪き、地に届く長い髪を頭頂近くで一つに纏めていた。
男は躊躇うことなく、その長い髪を登り始める。女の襟足にそよぐ、和毛(にこげ)を一心に見つめて登った。
その柔らかそうな項(うなじ)に手を伸ばしたときに、女の躰がバラバラに崩れて散った。
――あゝ。寄木細工のように無数の女が絡み合い、巨大なひとりの女が形作られていたのだ。
無数の女は薄っぺらく、冷たく、硬い。
その女の数だけ、男の心臓が鼓動した。
墜ちてゆく男を、シルクハットの怪人が真っ赤なマントを広げて受け止めて、猛毒の吐息で囁く。
ネェ。次は何を集めようか。

■サデスパー堀野は何処にいるのか?     氷原 公魚
♪ででででんでんでんででででんでんでん…
「サデスパー堀野ぉ? ああ、奴なら食品事業部海老係の係長として海老の殻を剥いていたよ。そこのトロ箱の中身は全部剥き身の海老さ。奴はそれで夜中のチャーハンを作るんだ。今どこかって? 知らないねぇ。」
♪ででんでんでんででん!
「アンタ、あの子のなんなのさ?」♪
たーけのこサーデよこはま何処すかー?
「アンタ、あの子のなんなのさ?」
♪たーけのこサーデよこはま何処すかー?
♪たーけのこサーデよこはま何処すかー?
♪ででででんでんでんででででんでんでん…
「サデスパー堀野なら、さっきまでいたわよ。広報部ラジオ課第三分室でニョキニョキ☆ラジオの収録してた。ぷっちょぷっちょって呟きながら、机の上で尻穴にぷっちょ詰め込まれてたわね。何処にいるか? 知らないわ」
♪ででんでんでんででん!
「アンタ、あの子のなんなのさ?」♪
たーけのこサーデよこはま何処すかー?
♪ででででんでんでんででででんでんでん…
「サデスパー堀野を捜しているのかい? やめたほうがいいな。アイツ、運動部の二人四チク課で高田課長と乳首の摘み合いしてたぜ……トングでさ。恍惚の表情を浮かべていたぜ。もうアイツ、人間としてヤベェよ」
♪ででんでんでんででん!
「アンタ、あの子のなんなのさ?」
♪たーけのこサーデよこはま何処すかー?
♪たーけのこサーデよこはま何処すかー?

■サデスパー堀野捕獲作戦     須藤 安寿
「見ました! 間違いないです。だって盛大にぷっちょぶちまけてたし!」
竹の子書房BL課勤務のA子さん(仮名)は食堂から全力疾走で戻るなり、興奮さめやらぬ口調でまくし立てた。
だが性感帯開発部メンバーの反応はいささか冷めたものだった。目撃情報だけならもう飽きるほど聞いたのだ。
「ここは怪談課じゃないし愛玩動物課でもないんだよ? BL課の性感帯開発部なの! 目撃情報を疑うわけじゃないけど、ぷっちょぶちまけてるって程度じゃパンチ不足で仕事のネタにはならんでしょ。どうせならウチの課長と乳繰り合ってる現場押さえて来てよ。ローアングルからの写真付きで」
「えー」
A子さんは眉を寄せた。アンタそこまで無茶言いますか。そう訴えたいのが丸わかりの表情だ。
まあ、そういう反応も致し方ないかな。言ってみれば、サデスパー堀野氏は竹の子書房におけるUMAや都市伝説のようなものだ。
誰もが名前を知っているし、社員名簿にもしっかり名前がある。
しかも名前は一つじゃない。組織図の至るところに「サデスパー堀野」とあるのだ。
さらに社内で立ち上がるプロジェクトには(それがどんな課の、どんなプロジェクトでも)必ずと言っていいほど彼の影がちらつく。
「竹の子書房には一〇八人のサデがいる」と噂されるのは、そうした理由からだ。
『ウチにもひとり欲しいわよね』BL課・性感帯開発部で誰かがぼつりとそう漏らしたのは発足間もない頃だ。
以来サデスパー堀野氏を手に入れることが性感帯開発部の悲願となった。
だってね、いかにもあれこれ試したくなる素材……もとい、彼がいればプロジェクトにハズレなしとの噂もあるし。
「あ、でもでも。今からみんなで行けば捕獲できるかもしれませんよ?」
A子さんは言った。
「ぷっちょばらまきつつ寝落ちしてましたから」
寝落ち……そう、それもまたサデスパー堀野氏の目撃情報につきまとう重要なキーワードの一つだった。寄せられる目撃情報の98%が寝落ちでぷっちょだ。
このとれたてほやほやの目撃情報に関して言えば、「寝落ち」のキーワードは重要だった。
何でそれを先に言わないかなキミは。
誰もがそう言いたい気持ちになり、そしてその言葉を口にするより早くそれぞれの得物に手を伸ばしていた。鞭、縄、鎖に手枷に泡立て器。備えは、いつだって万全だ。
そしてついに、BL課性感帯開発部は立ち上がったのだ。
伝説のフラグブレイカー捕獲のために……。

■彼はそこにいる     神沼 三平太
彼は人当たりは大変良く、誰のことも基本悪く言うこともなく、激しい感情の波とも無縁なようだった。
仕事は雑誌などで文書を書いている。所謂ライターだ。
仕事ぶりを見る限り、誠実で真面目な男という印象だった。実際誠実で真面目な男なのだが、一方で不思議な印象を与える男だった。浮世離れしているというか、醒めているというか、何かを諦めているようなところがあった。
自分自身への興味が薄いのだろう。生き方も不器用で、基本的に何でも正攻法で解決しようとする。
愚直である。愚直だが、それは小狡い手を選ばないという、彼なりの美学でもあるのだろう。
だが、それを彼に訊いても、「そんなこと思いつきもしませんでしたよ」と、軽く躱すに違いない。
その言葉が本気なのか、照れ隠しなのか、我々には峻別することはできない。
ただ、彼の真正面から向かって行くという仕事ぶりは、仲間の信頼を得るのに充分なものであった。
そして彼には彼自身を強く特徴づける一つの性癖があった。
ものを集めて集積すること。彼は何かをコレクションすることについて異常な興味を示していた。それも世の中の価値観に迎合する訳ではなく、自分の基準と照らし合わせて、琴線に触れたものだけを集めるのだ。
だから、金銭的に価値が無いと思えるものに対しても、その情熱を注ぐことになる。例えば子供向けのおまけシール。例えば電子書籍の初版本。数字の組み合わせが気に入った宝くじの外れくじ。一般的な感覚からすれば奇癖だ。
しかし、それが彼の商売の一部になっているという。彼は集めて積み上げるということに天性のセンスを発揮するのだ。彼に何を集めているのかを訊いても、決して真実を答えてはくれないだろう。
だが彼は集めているのだ。彼の仲間が引き起こす少々エキセントリックな日々の断片を。
竹の子書房広報部日記課。それが彼のいる場所だ。

■ディヴェルティスマン #40     かずぷー
サデスパーは己にサデスティック。堀野は掘り炬燵のように温かい。
もし君が悲しみに負けそうになったら、サデスパー堀野を呼べばいい。
彼ならきっと、寝落ちしてくれるから。
ラジオの司会で、レディーの前で。
若葉が芽吹き、その葉を広げ、色付き、散っても、寝る。
河水が苦り、暗雲から死が現れ出でようとも、寝る。
そのうちきっと、寝ながら寝るね。
寝る寝る寝るね。
フラグ、オフ。 オフ、フラグ。 デフラグ、ライフ。
永久(とわ)に十和田湖、サデは永久のボーイ。
君と僕がサデスパーを注視。堀野は僕らの心の正反対を注視。
フラグ、オフ。
オフ、フラグ。
デフラグ、ライフ。
十朱幸代、永久のボーイ。
誰の事?
サデの事。
それでも君にはサデスパー。
それでも僕には堀野。 故郷のような男さ、サデスパー堀野。
「ただいま」と言えば、「お帰り」と返してくれる男さ。
ユニゾン、堀ゾン、ホライゾン。
ウデスパーはどこにいる。

■トングトンガートンゲスト     青山 藍明
わたしが初めて、あの男に出会ったのは、新宿で開かれたある飲み会のことでした。あの男は、何故か雑踏のなか、しきりに右手に持つ銀色に輝くものをカシャン、カシャンと鳴らしていたのです。
見たところ、佇まいは別に奇妙な印象はありませんでした。どちらかと言えば純朴で、地味な青年だったかと思います。
しかし彼の眼差しは常に右手に握られた、銀色に輝く「それ」を恍惚として眺めておりました。
わたしはまさか、あの男が待ち合わせの仲間のひとりとは、思いもしませんでした。
しかし、あの男の周囲に顔見知りな、つまり自分と何度か顔を合わせたことがある、竹の子書房の方々が集まっていたのです。
ああ、なんということでしょう。我が目を疑いました。あの男に出会ったことで、わたしは二度と往来を歩けないのではという羞恥心に満たされてしまいました。
あの男こそ、サデと呼ばれる「全日本トング愛好会会長(自称)」だったのです。
「こいつは、俺の相棒で恋人……まぁ、そんな存在なのさ」サデ氏はへたくそなウインクをしながら、言いました。右手に持っているものは案の定、サデ氏が大切に磨きあげたトングだったのです。
こうしてサデ氏は、傍らに座り、トングというものがどれほど素晴らしいものかを滔々と語ってくれました。
内容は、殆んど頭に入りません。ただサデ氏は時折、シャツをまくっては自分の乳首をトングで挟み、「君もどう?」とすすめてくることだけが、不快にも脳裏から離れないのです。
あれ以来、トングを見かけるたびに奇妙な衝動にかられる自分がいます。
こんなこと、誰にも言えるものではありません。
爛れた世界を植え付けたサデ氏は、いまでもやはり、己の乳首を挟み、トングを見つめ、恍惚としているのでしょうか。
ならば、あのトングは調理器具という本来の目的には使用されていないということになります。調理器具売り場へ足を運ぶことさえ、今では躊躇してしまうのです。もし、そこでトングを見つけたら、きっと、いえ、間違いなく……。
カシャン、部屋のどこかに隠したトングが、今夜もいやらしく鳴っています。気持ちいいから、試してみなよと誘うように。
だから耳を塞いで眠るのです。己の性癖を認めたくないからこそ、聞こえないようにするのです。
あのギザギザしたところで、もしアレを挟んだとしたら……。身体は抵抗できず、どっぷりとその未知な感覚へ浸ってしまうことでしょう。
サデ氏の「うまくいった」と喜ぶ顔がうかびます。
ああ、また夏がくる。
カシャンという音が、だんだん大きくなる。たすけて、たすけて……。

■男の真髄     ねこや堂
男は即座に理解した。
世間を丸く収める為には、全てを黙って飲み込まなければならない。
クライアントのどんな理不尽な要求にも応え、粛々と仕事を遂行する。己に非など一つもない、こんな事案にさえ求められれば対応する。
それが傭兵たる己に課された使命であり、信念であるのだ。
そうでなければ、生き残れない。いや、そうやって今までも切り抜けてきたではないか。
己のプライドなど取るに足らぬちっぽけなものだ。むしろ、己のこの信念にこそ誇るべきではないのか。
吹けば飛ぶような蚤虱のようなプライドなぞ、邪魔にしかならぬ。斯様に世間とは苛烈なものなのだ。
襟元を正し、息を整える。男は覚悟を決めた。
「僕がトイレ間に合わなくてウ○コ漏らしたのは、サデさんのせいです。謝ってください」「どうも申し訳ございません」
当然と言わんばかりのコータの声に、間 髪入れず謝罪する。
自分に関係のないことで謝るのも慣れた。というか、もう恒例行事だ。
自分に都合の悪いことを誤魔化すため、竹の子社員は全てをこの男の謝罪で終わらせる。サデスパー堀野という男は、そこのところをよく心得ている。
それで事が収まるのなら、頭を下げることなど容易い。
竹の子社員は知らない事実。
何せ、「世界土下座選手権」の日本代表なのだから。

■梅を集める     つくね 乱蔵
陽が落ちても熱気は冷めやらない。
ビルの影に押し込められていた闇が夜と共に姿を現しても、室外機から吹き出す熱風が陽炎となって人々を惑わせる。
そんな中、一人の男が歩いていた。
細い。
身体つきも印象も、その一言で言い表せる男である。肩から斜めに掛けた大き目の鞄が、腰の動きに合わせて揺れる。
男は時折、何でもない場所で立ち止まり、ごく普通の景色を見上げて微笑む。
視線の先を丹念に調べると、マニアにしか価値が分からない看板や、マニアですら価値を見いだせない古びた人形が見つかる。
街を歩くのは男の趣味であり、様々な景色や物品を収集するのは男の生きがいであった。
誰に頼まれたわけでもない。何処かに並べるわけでもない。強いてあげれば、男の胸の中がその展示場かもしれない。
その展示場の一角に、淡い輝きを放つ場所があった。
「それって、あたしもあなたのコレクションの一つってこと?」
「堀野君って、何考えてるか分からないから……ごめんね、不安になっちゃったの」
通りに並ぶ店から歓声と嬌声が漏れてくる。
眠らない街を歩きながら、先ほどから男は何か探していた。
「あ。いた」
薄汚れた猫が、胡散臭そうに男を見上げた。
「ちょっといいですか」
そっと座りながら、手を広げた。いつの間にか掌に煮干しが乗っている。
途端に愛想よくなった猫を撫でながら、男は鞄からスタンプ台と色紙を出して道路に並べた。
煮干しで誘導された猫は、スタンプ台を踏んでから色紙の上を歩く。物の見事に色紙に梅の花が咲いた。
「ありがと。いい形です」
丁寧に頭を下げると、持っていた煮干しを全て与え、男は通りに戻った。
どことなく顔が引きつっているように見えるのは、微かに笑っているのだ。
採集したばかりの梅の花を満足気に見ながら、男はぽつりと呟いた。
「何考えてるか分からない、か。ずっと君のことを考えてたんだけどな」
先程の猫が、外見に似合わぬ可憐な声で「なぁご」と見送った。
振り向きもせずに手を振ると、男は歩いていく。
その腰に鞄が揺れていた。


■あとがき     窓原 凛
これは悪夢ではなかろうか。
このような素晴らしい作品が集まろうとは夢にも思わなかった。
地獄の沙汰で一銭の金にもならないような企画に、プロ・アマ・セミプロが集まってよりどりみどりだ。
吊し上げを喰らったサデスパー堀野氏本人ですら、『誰が読むのか、どこをターゲットとしているのか全く分からない』と悪態をついたこの企画。
当たり前だ。
誰がってサデさん、あんた以外ターゲットしてないんだよ。
そもそもは、竹の子書房の紹介という名目で存在する『サデとコータのニョキニョキラジオ』内にて、サデことサデスパー堀野氏の迷言が発端である。
「宝くじが当たる路線なんて見たことない。僕という電車はその路線を走らない」 「自叙伝を書けと言われた。でも僕は自分のことが全く分からないから書けなかった」  この発言から、『じゃあ私達が教えて差し上げましょう』と放送中に企画発案したわけだ。
当然、真面目にやろうなどという気持ちは微塵もない。あるわけがない。
サデスパー堀野氏の観察記を集めて、ご本人に提出するついでに電子書籍化しようぜといったもので、いかにして辱めてやろうかと、お前を蝋人形にしてやろうかという気持ちしかない。
脳内では逆海老に縛りあげられたサデスパー堀野氏が、メリーゴーランドが如くクルクルと回っている有様だ。
さてまず企画に差し当たって、書きたい人が書くという従来のパターンでは、あまりにも美化されてしまうと危惧した私は〈リレー形式のバトン制度〉を取った。
バトンを渡された方はたまったもんじゃないと思ったからだ。
しかし、思惑通りにはいかないもので、皆こぞって大喜びで書き上げてしまった。 
しまいには『このまま行けば終わらないのではないか』と恐れ慄き、手に汗びっしょりの大慌てでラストコールへ誘導したほどである。

そんな企画発案者の思惑から大きく外れて、素晴らしい作品集になった本作を読んで、読者の皆様はどのように思われただろうか。
サデスパー堀野氏、あなたはどう感じただろうか。
答えは決まっている。
「ふーん」
サデスパー堀野という男はこういう人間なのだ。
というのも、その時その瞬間あったことに対してその場で感情を持たず、即座にフォルダ分けしてしまうためだ。
なぜなら都度感情を噛み締め反芻していては、『次』に間に合わないためである。
それこそ、ビックリマンチョコのシールをヘッドロココが出るまで、一枚一枚に一喜一憂していたらキリがない。
彼にはビックリマンシール以外にも集める物はたくさんあるのだ。
次から次へと、袋を、箱を、開けなければならない。
そこに至るまでに落胆と少しの喜びがあろうとも、そんな事よりも先にコレクションを〈保存〉して〈保管〉しなければならないのだ。
コレクションの有無を脳内に〈保存〉して、破れたり、折れ曲がったり、劣化しないように〈保管〉する。
感情はいらない。
必要なのは、保存して確実に保管する事だけ。
このコレクター魂を自らの生き様にも反映しているのが【サデスパー堀野という男】なのだ。
そして、限りある脳内メモリの大半を食っているのがコレクションである。
感情など、揚げ物に添えられたレモンのようなものだ。
あっても無くても別に良い、あれば尚良いが無くても良い時も付いてくる。そんなものだ。
コレクションのために空けられている容量を、レモンに食われるわけにはいかないのである。
しかし、彼の脳内メモリから〈揚げ物に掛けられたレモンの味わい〉が完全に削除されているわけではない。
復旧可能なデータが、このレモンという名の感情だ。
歩み寄って、時間を厭わず、一つずつ丁寧に復旧作業をすれば、圧縮された感情が溢れ出てくる。
その感情が新鮮だろうが、腐っていようが構ってやるな。
一緒に『ふーん』と言ってやるのが、友達ってやつだ。

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